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福島第一原発事故を予見していた電力会社技術者 無視され、死蔵された「原子力防災」の知見
「なぜ住民を避難させることができなかったのか」という疑問の手前には「なぜSPEEDIのデータが住民の避難に使われなかったのか」という疑問がある。これまで本欄で見てきたように、SPEEDIが本来の機能を果たしていれば、3月15日に放射性雲が北西(南相馬市〜飯舘村)に流れることは予測できたはずであり、その住民に警告を出して避難させることができたはずだからだ。
──当初、国は「原子炉が高温高圧になって温度計や圧力計が壊れたため、SPEEDIのデータは不正確だから公表しなかった」と説明していました。しかし「事故に備えたシステムが事故で壊れた」など矛盾した説明で、とうてい信用できませんでした。
「率直に言って、たとえSPEEDIが作動していなくても、私なら事故の規模を5秒で予測して、避難の警告を出せると思います。『過酷事故』の定義には『全電源喪失事故』が含まれているのですから、プラントが停電になって情報が途絶する事態は当然想定されています」
SPEEDIてのは放射能の影響を予測するシステムのこと。放射性物質は同心円状には広がらず、風向きや風速、地形によって変化する(ネフェルピトーの円みたいな感じ)。SPEEDIはそれらを計算し予測することができるため、事故った場合はこれを活用し、迅速に住民を避難させなければならないとマニュアルに載っている。けれども、現実に起こったことといえば…散々叩かれた通り。なぜ活かされなかったのか?という理由・背景については、プロメテウスの罠にある記事が興味深かった。
- 作者: 朝日新聞特別報道部
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___ /\ /\ _ /((◯)(◯))\ / マジで!? | ゚~ (__人__)~゚ | \ \ |r┬、| /  ̄ / `⌒´ ヽ
本来は、文科省が原子力安全技術センターを使って一時間ごとに予測をし、その情報を受け取った原子力災害対策本部=官邸が避難指示を出すはずだった。実際、3/11に文科省と保安院がそれぞれSPEEDIを使って予測を行なっていたのだが、何故か官邸には伝わらず……。朝日取材班が推測する当日の経緯↓
1. 19時すぎに原発から5キロのところに現地対策本部ができる。マニュアルではここがSPEEDIを使って避難区域案を作る役割。
ただし、現地本部は地震の揺れで通信回線が途絶、人の集まりも悪くその任務を負えそうにない。
2. 現地本部が機能しない場合、避難区域案をどこが考えるのか。保安院と官邸ですれ違いが起こる。
3. 保安院の緊急時対応センター(ERC)がSPEEDIを用い、避難区域案を作ろうとする。
官邸に置かれた原子力災害対策本部の事務局は保安院であり、ERCはその中核。
4. 対策本部の中枢は現地が機能しなくなった以上、自分たちが避難区域を決める他ないと考え、ERCの存在を認識できないほど焦り混乱していた。
5. 21時すぎ、別々に避難案づくりが進む
6. 21:12 ERCはSPEEDIの予測図を原子力安全技術センターから受け取る。
79時間先まで予測できることから、今後の拡散範囲を予想し、危険区域にいる住民を非難させようとする。
7. 21:23 原子力災害対策本部長の菅直人は同心円状の避難指示を発する。
3キロ圏内は避難、10キロ圏内は屋外退避。
8. 一切連絡がこないまま、いきなり結論(しかも同心円状という常識外れ)が降りてきたことにERCは騒然。
官邸中枢が避難区域を決めてしまった以上、自分たちの役割はないと、この時点でERCは避難区域案作りをやめる。
9. 5:44 10キロ、6:25 20キロと範囲が広がっていくもいずれも同心円状…。
ERCは16日までに45回SPEEDIを使い、(避難区域を決めるのではなく)官邸が決めた区域の検証を行う。
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20キロ圏外でも高線量地域があったことはネットワークでつくる放射能汚染地図で話題になった。驚くべきことに菅首相はERCがSPEEDIを使って独自の避難計画案をつくっていた経緯をこの連載で知ったらしい。保安院院長の寺坂信昭は目の前にいたのにERCの動きが伝わってなかった。SPEEDIをめぐる各所の動きをみると突っ込みどころがたくさんある。
文科省 :予測したり官邸以外に届けたり。
安全委 :既に送られていると思って、官邸には連絡しない。
福島県 :3/12夜からデータを受け取っていたが、メールの容量が大きいという理由で削除。
外務省 :3/14から電話一本で米軍に提供。
保安院 :SPEEDIを用いた避難区域案作りを中止。官邸中枢に予測図を0〜3枚渡す?
官邸 :3/20前後まで存在を知らず、認識後はパニックを恐れてしばらく予測図を非公開。
/- -\ / (● ●) \ ( (_人_) ) r ,≡∩,  ̄ ヘ ヾ^ノ`ノ | | ヽノ | |
米軍への提供の具体的な流れは、横田基地の司令部から外務省の若手(木戸大介ロベルト)に電話がくる→「原発事故の支援に際して放射能関連の情報がほしい」→方々に電話し、文科省の防災環境対策室に行き着く→提供可→直接送るのは人手不足なので中継することに→文科省からきたデータを自動転送で米軍へ。
- 作者: 日隅一雄,木野龍逸
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川内博史ビデオメッセージvol.7 『なぜSPEEDIは活用されなかったのか。』
いちおう官邸が知らなかったのは嘘だよ説もあるっちゃあるけど、穿ちすぎ感が強め